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自主映画や小劇場を中心に活動する俳優・外山弥生の記録です。
旅の一座に身を寄せる、角の生えた少女”鬼”。
彼女が舞を舞い始めた瞬間、男は少女の背後に一面の桜を見た。
やがて二人は本物の桜を見る旅に出る。
辿り着いた先、満開の桜を見たときに、二人を待ち受けていた運命とは。

表題作ほか四つの作品を収録した短編集。

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やられた。
たった一コマで涙が噴き出した。
しかも二回もやられた。
表題作の「亡鬼桜奇譚」と、続く「無限時間」。
クライマックスのヒロインのアップひとつで、滝のように泣けた。
これこそ本物の漫画の力だ。

斉藤けんは特異な物語作家としてスタートした。

受賞作「月光スパイス」、他人を食べずに生きられない”狼”と
食べられる側の”兎”の友情の物語。友情を守るために狼が選んだ
選択肢と狼を助けるために兎が取った道が秀逸だった。
これはただの少女漫画ではないと思った。

次に斉藤けんが発揮したのは、心理描写の深さだった。

ヒット作、「花の名前」、身寄りをなくした少女と孤独な小説家の
遅々とした恋愛物語。登場人物のキャラクターが煮詰められていて、
そこから生み出される台詞が光っていた。
この人は漫画で文学をやろうとしているのだと感じた。

少女漫画の王道パターンを決して踏まず、しばしば恋愛を少しも
扱わず、斉藤けんはいつも独自の物語をつむいできた。
ただ、絵はいつも物語を伝えるための手段であって、絵が主役に
なることはなかった。小説で書きたいことを、絵のほうが得意だから
漫画で描いているのではと思うこともあった。

この短編集で、斉藤けんは本当の漫画家になった。
物語はなるべくしてクライマックスへと進み、クライマックスでは
絵がすべてを語る。台詞も説明文も必要ない。
独創的な物語、深いキャラクター造詣、叙情的で繊細な絵柄、
そのすべてが最高のバランスでかみ合った。

重いテーマの話が多い短編集だが、不思議と読後感は悪くない。
少女漫画を読んだことのない人、少女漫画のワンパターンさに倦んで少
女漫画を離れた人に勧めたい。
斉藤けんは、稀有な本物の少女漫画家です。

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【2009/10/16 10:28】 | おすすめ/漫画
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