自主映画や小劇場を中心に活動する俳優・外山弥生の記録です。
東京都のはずれに位置する「まほろ市」には何もかもがある。戦後そのままの
バラック商店街もあれば、怪しげな歓楽街もあり、小綺麗なシティホテルが
建つ表通りもあり、広大な農村地もある。
まほろで生まれた者はほとんどまほろを出ず、出て行った者もまたいつか
まほろに帰ってくる。

そんな町の駅前で便利屋を営む多田は、高校のクラスメートだった行天と再会
する。行天とは高校時代、一言もしゃべったことがなかった。それどころか
行天は高校三年間で全く声を出さなかったのだ。ある一言を除いては。

ところが久々に会った行天はよくしゃべりよく動き余計なことばかりして、
ついには多田便利軒に居候を決め込んでしまった。行天が転がりこんできて
からというもの、犬の飼い主探しや小学生の送り迎えなど、なんの危険も
ないはずの依頼が軒並みヤバそうな方向へ転がり出して・・・!?

軽快な会話に乗せて送る、連作コメディ。直木賞受賞。

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ソフトなハードボイルド、略してソフトボイルド。
この小説を一言で表そうと思ったら、この珍妙な単語を思いつきました。
ふざけているわけじゃないんですが。

それぞれ過去に傷を抱えた二人の男が事件を解決する中で絆を深め、やがて
自らの傷と向き合う。小道具は酒と煙草と軽妙な会話。この形態はかなり
ハードボイルドっぽいのですが、主人公が非常に内省的。回想が頻繁に挿入
され、それに対する主人公の心理が細かくあたりは非常に少女漫画的です。
少女漫画的であること自体は欠点ではないけど、ちょっと話が停滞しがち。

文章は平易だけど少し舌っ足らず。“紙袋に犬用品を入れて持って出る”と
いう描写の数ページあとに説明なく「紙袋を」と普通名詞だけが出てきたり
するので、「紙袋ってなんだっけ」と読み返す羽目になったりします。伊坂
幸太郎の「砂漠」をおしのけて直木賞になった作品にしては力不足を感じます。

それでもこの小説をおすすめする理由は、この物語が「幸福の再生」を扱って
いるからです。

中盤、母からの関心を得られず犯罪に走った少年が多田に問いかけます。

「生きてればやり直せるって言いたいの?」

多田は答えます。

「いや。やり直せることなんかほとんどない」

その後、多田が続けて語る言葉がこの物語の全てです。

幸福な人にはこの物語は必要ありません。この本をおすすめしたいのは、
失恋、ペットの死、友人との仲たがいなど、愛を失くしたばかりの人です。
薬にはならずとも一杯のホットミルクのように優しい助けになることでしょう。

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【2009/10/27 08:54】 | おすすめ/本
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