自主映画や小劇場を中心に活動する俳優・外山弥生の記録です。
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 -臭いが視える-

 姉の家で何者かに頭を殴られ、一ヶ月間意識不明になった
「僕」は、目覚めたのち、姉が殺されたことを知らされる。
その衝撃も覚めやらぬうちに、「僕」はおかしなことに
気がついた。

嗅覚がない。
幻覚が見える。

 ところが調べるうちに、嗅覚がなくなったのではなく、
幻覚と思っていたものが「僕」の嗅覚であることが判明する。
「臭いが視える」という特殊能力に戸惑いながら、「僕」は
姉を殺した犯人を捕まえるため、友人たちと立ち上がる。

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小説に出てくるラブシーンで一番好きなのが、この「オル
ファクトグラム」の主人公とその彼女のセックスシーンです。
こんなに視覚的に美しく高揚感があって微笑ましい気持ちに
なるラブシーンをほかに知りません。これだけでも、友達に
すすめたくなるくらいのいいシーンです。

 閑話休題。

 犬並みの嗅覚を持つキャラクターはいろいろなジャンルの
小説に登場しますが、それを視覚的に処理したのはおそらく
この小説が初めてだと思います。空間に球や円錐や立方体の
色とりどりの立体が浮かんで見える。それが主人公の感じる
「臭い」である。オレンジやピンクの球体がふわふわと漂い
はじめ、やがて彼女が部屋に入ってきて、あ、これは彼女の
「臭い」なんだなと記憶する。視覚的に処理することで、
読者に「臭い」の違いが分かりやすくなっただけでなく、
「臭い」を主人公が覚え、それを手がかりに犯人を追っていく
という展開が非常にスムーズになっています。「臭い」の
色や形がそのまま主人公が相手に抱くイメージでもあるのが
主人公の心理描写にもつながり、非常に小説的です。

 姉の事件と同様の事件が多発して連続殺人事件と見なされ、
警察だけに任せていられなくなった主人公は自ら捜査に乗り
出すわけですが、その道筋が一本道でないところもいいです。
つてを辿って自分の能力を検査してくれる機関を探し、友人
と一緒に自分の能力を生かすための道具を考案し、一方で
生活もしていかなきゃならないからバイトも探し、バイト先
で自分の能力の思わぬ使い道を見つけ、能力ゆえに人間関係
を壊したり新しく構築したり・・・「あらすじ」を言えば、
「姉を殺した犯人を追い詰める」なんですが、そこまでの
紆余曲折の中にちゃんと生活があります。

 さらに、ビートルズマニアで有名な作者が主人公に与えた
設定はバンドマン。演奏シーンのリアルさ、わくわく感は
やはり音楽好きでなければ書けないところ。CDを手売り
するつらさ、バイト先での馴染めなさも同じくです(笑)
是非現役バンドマンにも読んでもらいたいです。

 読後感がいいのもおすすめポイントです。連続殺人事件が
起こっている以上、完全なハッピーエンドにはなりませんが、
主人公の見つける幸せは読む者の心をとても温かくしてくれ
ます。

青春小説好き、恋愛小説好き、音楽小説好き、もちろん推理
小説好きにも、いろんな人にすすめたい小説です。中学生の
ころに宗田理に夢中になった方や、漫画でいうと浅田いにお
「ソラニン」の空気感や岩明均「寄生獣」の主人公の戦いの
工夫ぶりが好きな方にも。古本屋で千円くらいなら買いです。

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ちなみに、これを読んで井上夢人を気に入った方は、作者の
別の作品を読むより岡嶋二人という作家の作品を読んだ方が
いいです。井上夢人がコンビで小説を書いていた頃のペン
ネームです。当時から文章はほとんど井上夢人(当時は井上
泉)が書いていたようで、文体は同じ感じ。そして完成度で
言えば、井上夢人名義作品より断然上のものが多いです。
ちょっぴり残念なことですけどね。

【2009/12/15 08:54】 | おすすめ/本
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