自主映画や小劇場を中心に活動する俳優・外山弥生の記録です。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

遊女は問わず語りに身の上話を始めた。
間引き専門の産婆だった実母。
物心ついたときにはその手伝いをしていた自分は、
生まれながらに地獄道に落ちていたのだと・・・。

「教えたら、旦那さん、ほんまに寝られんようになる。」

岩井志麻子のホラーデビュー作、山本周五郎賞受賞。

Amazon商品ページ

* * * * * * * * * * * * * * *

人間が一番怖いものは、よく分からないものだと思います。

「現場は土壌の関係で足元が悪く、熟練した登山家でも
足を滑らせて落ちることがあります。危険な場所です。」

よりも、

「捨てられて死んだ女の霊がいるんです。だから若い男が
近づくとひきずり落とされます。」

のほうが怖いですよね。でも、

「なんだか分からないけどあそこへ行くとみんな死ぬ。」

のほうがもっと怖い。根拠や背景がないほうが怖いんです。

そう考えると、一人称の語り形式というのは最もホラーに
向いている形式だと言えます。主観だから背景はしばしば
省かれ、主人公が見聞きしたことだけがクローズアップ
される。主人公の知っていることだけだから、根拠もよく
分からないことが多い。矛盾もあって当たり前。

で、その形式のホラーの中でも一段と飛びぬけていると
私が思うのがこの「ぼっけえ、きょうてえ」です。

大体にして、遊女の問わず語り、しかも方言、ってだけで、
「ぼっけえ、きょうてえ」(岡山弁で「とても怖い」の意)
ですよ。反則ものです。

その遊女の語る話っていうのが、「私の母は間引き専門の
産婆で、私も小さい頃からその手伝いをしていて・・・」って
いうんだから、もう怖くないわけがないです。

何が怖いって、「間引き専門の産婆」も「その手伝いをする
幼女」も「我が子を殺すために産む母たち」も、遊女の語る
世界の中では当たり前なんです。読者が「なんでそんな怖い
おかしなことが行われるのか」と思うその疑問が解消される
ことはないんです。恐ろしい世界の根拠がない、これが余計
恐ろしい。

そして一人称をうまく利用して最後まで隠され続ける真相、
物語の背景、これがラストほんの数行で明かされます。

怖い。

同時収録されている牛頭人身の化け物「件(くだん)」の
話もそうですが、この人のお話にはほんのちょっとの怪異、
妖怪変化が登場して、それがもうかなり怖いんですが、結局
それよりもさらに人間の業のほうが怖いということになって、
それがどうしようもなく恐怖をかき立てるんですね。異世界
の話だと思っていたら、自分の家の隣で起きていた、という
ような。

岩井志麻子名義の二冊目以降はホラーよりエロの成分が
多めで、しかもそのエロが目新しいものではないだけに、
このホラーデビュー作を何度も読み返しては震え上がる
阿呆な一読者の私です。またいいホラー書いてほしいなあ。

「ゲゲゲの鬼太郎」より「墓場の鬼太郎」だという方、
ジェーン・カンピオンの最高傑作は「ピアノ・レッスン」だと
思う方、方言って可愛くて怖いよねと思う方、自分も女なのに
女が怖い方におすすめです。文庫なら定価でも買い。

Amazon商品ページ

と思っていたら、岩井志麻子の短編が収録されているホラー
アンソロジーを弟から借りまして、アンソロジー自体のレベルは
さほど高くないものの、岩井作品は素晴らしかったので明日
その本について書きます。

【2010/01/15 08:53】 | おすすめ/本
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。