自主映画や小劇場を中心に活動する俳優・外山弥生の記録です。
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なんにも用事がないけれど、
汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う。

旧制高校がなくなり、プロ野球ができ、テレビの実験
放送が始まった昭和25年。頑固・偏屈・我侭な作家は
突然そう言って大阪に旅立った。

とぼけた会話と美しい情景描写が楽しい、「なんでも
ない日ばんざい」的紀行エッセイ。

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読むのにすごく時間がかかります。
だって、面白すぎて、ひとつのエピソードを繰り返し読んで
しまって、先に進めないから。

そもそも昭和25年といえば、まだまだ戦後の色濃い上に
朝鮮戦争も始まり、一般人の不要不急の旅行は慎むべき
とされていた頃です。

さらに先生、お金もない。わざわざ借金をして出かけます。

おまけに、一人でいると胸が苦しくなってくる性質なので、
お供なしには出かけられません。

もうね、あほかと。用事もお金もなければ一人で列車に
乗ってもいられないのに、旅行行くなよと。

「阿房(あほう)列車」の題名は一種の謙遜だなんて、
文中で先生仰ってますが、謙遜でもなんでもないと思い
ます。

ちなみに先生曰く、贅沢もしないのに生活に困窮した挙句
借りるお金は一番返すあてがないのでよろしくなく、それ
と比べたら不要不急の旅のために都合してもらうお金は
「借金の本筋」なのだそうです。

で、目的のない旅です。というか、目的を作ってはいけない
という先生マイルール。

よって、旅先でもなるべく人には会わない、観光もしない。
ただひたすら列車に乗っては酒を飲み、宿に泊まっては
酒を飲み、お供の「ヒマラヤ山系」氏ととりとめない話を
するだけ。

これが、とてつもなく面白いのだから、始末に負えません。

「ヒマラヤ山系」氏のキャラクターも良いです。
先生にぼんくら扱いされながらも甲斐甲斐しく世話を焼く
のですが、面倒臭くなってくると先生の発言をしれっと
無視したりします。気が荒くて短くて難しい百けん先生と
好対照。二人の落語のような会話を読んでいると、噴き
出してしまうこともしょっちゅうです。

かと思えば、車中から見える美しい景色の描写などは、
これはもうさすが文豪としか言いようのない、簡素にして
ありありと情景が目に浮かぶ名文。紀行ものらしく、
読むだけでその土地に行ったような気分にさせてくれます。

紀行ものが好きな方、
日本の喜劇が好きな方、
修学旅行の自由行動で乗り換えの計画を立てるのが好き
だった方に。
文庫なら即買いです。

最後に、私が一番気に入っている「ヒマラヤ山系」と
先生の会話の一部分を引用します。略している部分が
気になる方は、ぜひ買って読んでみてください!

※「ヒ」は「ヒマラヤ山系」、「内」は内田百けん。

(前略)
ヒ「僕、こないだ湯河原に行く用事がありまして」
内「湯河原へ何しに」
ヒ「それはですね、湯河原に用事があったのです」
内「そうか」
ヒ「土曜日だったもんですから、女房のおふくろが二ノ宮に
いるのです」
内「わからないね」
ヒ「いえ、それはもとからいるのですから」
内「それで土曜日がどうしたのだ」
ヒ「土曜日ですから、それで女房を連れまして」
(中略)
ヒ「仕方がないから、湯河原まで行ってしまいました」
内「女房とかい」
ヒ「そうです」
内「新婚旅行だな」
ヒ「そうじゃありません。僕は湯河原に用事があるのです」
(後略)

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【2010/04/19 08:49】 | おすすめ/本
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